あなたにお茶と音楽とガバナンスを

〜音楽とコーポレートガバナンスは似ている。
どちらも緻密なルールとロジックに従うことが求められるが、良いものとするには担い手の情熱が欠かせない〜

チーフコンサルタント 藤島 裕三

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コラム

守ってあげたい

 

 

You don’t have to worry, worry, 守ってあげたい/あなたを苦しめる全てのことから

(松任谷由実「守ってあげたい」)

 

国内最大級の資産運用会社である野村アセットマネジメント株式会社は昨年11月、リリース「『日本企業に対する議決権行使基準』の改定について」を発表しました。その主な内容は、日本企業における「モニタリング・ボード」への移行を後押しするというもので、同社が投資先企業の取締役会につき「モニタリング・ボード」に該当すると判断した場合、議決権行使において会社提案に賛成する要件を緩和します。

 

モニタリング・ボードに該当するか否かを判断するため、過半数の社外取締役のほか、女性の取締役の人数や政策保有株式の保有状況等に関する8つの要件を設けます。なお、この要件はモニタリング・ボードとして最低限のものと考えます。

モニタリング・ボードに該当する場合は会社提案に賛成する要件を緩和します。当面は役員報酬に関する基準を対象としますが、今後はROE低迷を理由に取締役選任議案に反対する基準(COVID-19拡大の影響を考慮して運用を停止中)についても対象としていく予定です。

 

「8つの要件」とは、①社外取締役が過半数、②社外取締役が過半数の指名・報酬委員会を設置、③指名・報酬委員会の議長が社外取締役、④女性取締役が1名以上、⑤買収防衛策を非導入、⑥政策保有株式が投下資本の10%未満、⑦取締役任期が1年、⑧支配株主がいる場合に取締役議長が社外取締役、とされています。これらをクリアした場合、ROEが3期連続で5%未満の取締役再任に反対する同社基準(停止中)を適用しない、すなわち業績不振の経営トップを信認することで「守って」くれるのです。

 

コーポレートガバナンス・コードは原則4-6(17頁)で、非執行取締役を活用した「経営の監督と執行」の分離が望ましいとしています。今回の野村アセットによる基準改定は、監督と執行を分離した取締役会そしてコーポレートガバナンス全体の在り方について、より具体的かつ実効的な方向性を提言したものと言えるでしょう。

 

コーポレートガバナンス・コード 原則4-6(経営の監督と執行)

上場会社は、取締役会による独立かつ客観的な経営の監督の実効性を確保すべく、業務の執行には携わらない、業務の執行と一定の距離を置く取締役の活用について検討すべきである。

 

株主・投資家は取締役会に対して、自分たちの代わりに経営陣の業務執行を厳しくチェックできるよう、独立した監督機能を高めることを期待しています。逆に言えば、ROE低迷など業績不振がしばらく続いていても、取締役会がしっかり監督していると信頼できるのならば、あえて議決権行使に際して厳しい姿勢で臨む必要性もないはずです。むしろ現在の苦境を早く脱することができるよう、経営陣を「守ってあげたい」と応援することになるでしょう。しかし仲間うちで馴れ合いの取締役会では信頼できない、味方になってあげるためにも取締役会改革を進めてほしい、というのが投資家の想いではないでしょうか。

 

So you don’t have to worry, worry, 守ってあげたい。なぜなら取締役会の監督機能がしっかりしているなど、株主重視のコーポレートガバナンスを構築できているから。アフターコロナや地球規模の環境問題など、不確実性がますます高まっている経営環境においてこそ、企業と投資家に求められる関係なのかもしれません。

 

 

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藤島 裕三

大和総研で企業調査部シニアアナリスト、経営戦略研究所主任研究員、経営コンサルティング部副部長を歴任した後、2014年にEY総合研究所未来経営研究部長を経て、2017年より現職。コーポレートガバナンスなど資本市場対応を専門分野とする。
日本コーポレートガバナンス研究所(JCGR)理事、財務省財政投融資ガバナンス委員会委員(2005年)。経産省コーポレートガバナンスの対話の在り方分科会 委員(2013年)。