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チーフコンサルタント 山﨑 明美

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コラム

座礁資産

 

座礁資産という言葉を耳にしたことはありますか?

座礁資産という言葉を日本国内でもちらほらと聞くようになったのは、2015年終わりごろからかと思います。同年12月に2020年以降の温室効果ガス(GHG)排出削減等のための新たな国際的枠組みとして第21回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP21)において「パリ協定」が採択された前後です。パリ協定は2016年11月に発効しました(パリ協定の詳細は外務省の以下のページからご覧くださいhttps://www.mofa.go.jp/mofaj/ic/ch/page1w_000119.html
統合報告書で座礁資産について触れている日本企業も増えており、認知度は上がっているといえるでしょう。

 

 

座礁資産とは?

座礁資産は英語ではStranded Assetと言います。「資産」だと思っていたものが、状況が変化して、価値が毀損される、あるいはなくなってしまう可能性がある、または既に価値がなくなってしまったもののことを言います。英国のカーボントラッカーイニシアティブ(現カーボントラッカー)という非営利シンクタンクが2011年に出したレポート“Unburnable Carbon” https://carbontracker.org/reports/carbon-bubble で使われ、その後気候変動や地球温暖化に関する議論の中で注目を集めるようになりました。

 

 

関連業界と機関投資家

温暖化を食い止めるには現在のペースで石炭・石油や天然ガスといった化石燃料(fossil fuels)を燃やし続けることはできず、化石燃料の備蓄あるいは火力発電所など化石燃料を使用するための設備などが座礁資産になるという議論がベースになっています。特に影響が大きいのは原油・石炭採掘業や、電力業界です。他には建材、鉄鋼、運輸(空運、海運、陸運)、化学、紙パ、自動車などの産業にも大きな影響が出るとみられおり、これらの産業と取引のある金融機関も含め、基本的に化石燃料関係はすべての業界になんらかの影響があるといわれています。
大手機関投資家を中心に座礁資産を気にする投資家も増えています。ノルウェーの政府資金など石炭火力発電の割合が高い日本の電力会社に対してダイベストメントを公表している機関投資家もあります。

 

 

化石燃料以外にも座礁資産はあるのか?

「座礁資産」の考え方は化石燃料とその周辺の施設・ビジネス等に限定されるものではありません。気候変動対応問題が活発化するにつれ、化石燃料関連から、概念が広がっています。具体的には、畜産・食肉などでも「座礁資産」問題が取り上げられるようになってきました。
今年1月21-22日に3回に分けて日経新聞電子版に掲載されたフィナンシャルタイムズの記事「食肉業界に押し寄せる『持続可能性』の波」には家畜飼育や食肉等のたんぱく質加工処理施設の存続可能性が低下するリスクを取り上げています。畜産飼料の栽培にかかる森林破壊、牛のゲップ(GHGであるメタンガス排出)などが問題視されており、一部大手機関投資家も気にしはじめています。
気候変動・環境問題が現在のビジネスモデルに与える影響から思いもよらない分野にも座礁資産があると認識される可能性が出てきているといえるでしょう。

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山﨑 明美

山一證券等を経て三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)入社。コーポレート・ガバナンス、ESGの調査研究、SR/IRコンサルティング業務に携わる。
2016年4月より現職。日本サステナブル投資フォーラム(JSIF)運営委員。共著「株主と対話する企業」をはじめ議決権行使、社会的責任投資、スチュワードシップ・コードなどに関する論文多数。