あなたにお茶と音楽とガバナンスを

〜音楽とコーポレートガバナンスは似ている。
どちらも緻密なルールとロジックに従うことが求められるが、良いものとするには担い手の情熱が欠かせない〜

チーフコンサルタント 藤島 裕三

HOME > コラム > たとえば、君がいるだけで(3月31日追記あり)

コラム

たとえば、君がいるだけで(3月31日追記あり)

 

 

たとえば君がいるだけで心が強くなれること/何より大切なものを気付かせてくれたね
(米米クラブ「君がいるだけで」)

 

2018年にコーポレートガバナンス・コードが改訂された際、上場会社に最も大きな影響を与えたひとつが、補充原則4-10①において「例えば」の文言を削除した、以下の変更でした。

 

 

コーポレートガバナンス・コード 補充原則4-10①

上場会社が監査役会設置会社または監査等委員会設置会社であって、独立社外取締役が取締役会の過半数に達していない場合には、経営陣幹部・取締役の 指名・報酬などに係る取締役会の機能の独立性・客観性と説明責任を強化するため、例えば、取締役会の下に独立社外取締役を主要な構成員とする任意の指名委員会・報酬委員会など、独立した諮問委員会を設置することなどにより、指名・報酬などの特に重要な事項に関する検討に当たり独立社外取締役の適切な 関与・助言を得るべきである。

 

 

これによって監査役設置会社および監査等委員会設置会社は、任意の指名・報酬委員会を設置していない場合、エクスプレイン(説明)することが求められるようになりました。東証の調査によると、市場第一部の上場会社による任意指名委員会の設置は28.6%から40.3%、同報酬委員会は31.7%から42.8%に高まった一方で、補充原則4-10①のコンプライ率は79.3%から52.1%へと大幅に低下しました(2018年12月31日時点、2017年7月14日比)。

 

金融庁「スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」では現在(2021年2月28日本稿執筆時点)、コーポレートガバナンス・コードの再改訂を議論しており、2021年春の実施を目指しています。同会議が2020年12月18日に公表した意見書は、「筆頭独立社外取締役の設置」につき検討を進めるとしています。その機能・役割について「独立社外者間の議論・認識共有の主導、独立社外者と経営者の意思疎通の仲介、独立社外者と投資家の建設的対話の窓口・橋渡し等」と具体的に注記で説明するなど、相当な本気度が読み取れます。

 

筆頭独立社外取締役は補充原則4-8②で、以下の通り「例えば」として言及されています。東証の調査
によると、同補充原則のコンプライ率は92.1%と高くなっています(2019年7月12日時点)。しかし多くの上場会社では筆頭独立社外取締役の設置には至っておらず、コーポレートガバナンス担当の社内役員や事務局が「連携に係る体制整備」を図っていることを以って、コンプライとしているケースがままあるようです。

 

 

コーポレートガバナンス・コード 補充原則4-8②

独立社外取締役は、例えば、互選により「筆頭独立社外取締役」を決定することなどにより、経営陣との連絡・調整や監査役または監査役会との連携に係る体制整備を図るべきである。

 

 

今回の再改訂で「例えば」の文言が削除された場合、筆頭独立社外取締役が未設置の上場会社においては、設置してコンプライするか現状のままでエクスプレインするか、対応と判断が迫られることになります。また今回は「例えば」の削除が見送られたとしても、英米ではLead Independent DirectorあるいはSenior Independent Directorとして確立した実務であり、わが国でも独立社外取締役を活用した取締役会の機能発揮を促進するための取り組みとして、引き続き強く期待されるものと考えられます。やはり今回の再改訂を機に、上場会社においては積極的に検討することが望ましいものと考えられます。

 

 

「例えば」君がいるだけで、再改訂でもエクスプレインしないで済んだのに、とはならないよう、自社の独立社外取締役で誰が筆頭者となり得るか、どのような機能・役割を果たしてもらえるかにつき、議論を進めておくのが良いでしょう。

 

 

(3月31日 追記)

本日開催の第26回フォローアップ会議で公表された「コーポレートガバナンス・コード改訂案」において、補充原則4-8②は特段の変更はされておらず、筆頭独立社外取締役は引き続き「例えば」を伴ったままとなる見通しです。一方で「投資家と企業の対話ガイドライン改訂案」および両改訂案に関する説明資料には、新たに「例えば、筆頭独立社外取締役」の文言が追加されました。「例えば」君は強かった。

 

 

 

 

 

 

本資料は弊社の著作物であり、著作権法により保護されております。弊社の事前の承諾なく本資料の一部または全部を引用、複製または転送等により使用することを禁じます。

コラム 一覧を見る
藤島 裕三

大和総研で企業調査部シニアアナリスト、経営戦略研究所主任研究員、経営コンサルティング部副部長を歴任した後、2014年にEY総合研究所未来経営研究部長を経て、2017年より現職。コーポレートガバナンスなど資本市場対応を専門分野とする。
日本コーポレートガバナンス研究所(JCGR)理事、財務省財政投融資ガバナンス委員会委員(2005年)。経産省コーポレートガバナンスの対話の在り方分科会 委員(2013年)。