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TCFD、気候変動とガバナンスについて

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TCFDとは、G20の要請を受け、金融安定理事会(FSB*)により、気候関連の情報開示及び金融機関の対応をどのように行うかを検討するため、マイケル・ブルームバーグ氏を委員長として2015年12月に設立された「気候関連財務情報開示タスクフォース(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)」を指します。(*金融安定理事会は、各国の金融関連省庁及び中央銀行からなり、国際金融に関する監督業務を行う機関です。)

 

423社の日本企業がTCFDに賛同しており(2021年7月7日現在)、日本は、賛同者が最も多い国となっています。一橋大学大学院・伊藤邦雄特任教授が発起人の1人として2019年5月に発足したTCFDコンソーシアムには、3365社が参加しています(2021年6月28日現在)。

 

(TCFDコンソーシアムは、TCFDに関する議論や情報提供を行っています。情報開示WGは効果的な情報開示に向けて議論を行い、2020年7月には「TCFDガイダンス2.0」を策定しました。情報活用WGは開示された情報の活用方法について、議論を行います。2019年10月には「グリーン投資ガイダンス」を策定しました。その他、投資家と事業会社の意見交換を小規模なグループで行うための場としてラウンド・テーブルを開催しています。)

 

TCFDは、2017年6月に公表した最終報告書を通じて、企業等に対し、気候変動関連リスク、及び機会に関する下記の項目について開示することを推奨しています。

  • ガバナンス(Governance)
  • 戦略(Strategy)
  • リスク管理(Risk Management)
  • 指標と目標(Metrics and Targets)

 

その中で、気候変動のリスク・機会のガバナンスとはどのようなものであるか、分かりにくいと感じる方が多いように思いますので、具体的に何を求めているのかについて考えてみましょう。

 

ガバナンスについて、TCFDの最終報告は、以下の通りに、気候変動をどのような体制で検討しているかの開示を求めています。(訳 株式会社グリーン・パシフィック)

 

推奨される開示内容a)

気候関連のリスク及び機会についての、取締役会による監視体制を説明する

気候関連問題に関する取締役会の監視体制を説明するに際して、組織は以下の事項に関する詳解を含めて検討する必要がある。

  • 気候関連問題について、取締役会及び/または委員会(監査、リスクその他委員会など)が報告を受けるプロセスと頻度。
  • 取締役会及び/または委員会が、戦略、主な行動計画、リスク管理政策、年度予算、事業計画をレビューし指導する際、また当該組織のパフォーマンス目標を設定する際、及び実行やパフォーマンスをモニターする際、さらに主な資本支出、買収、資産譲渡を監督する際、気候関連問題を考慮しているか否か。
  • 取締役会が、気候関連問題に対する取組のゴールと目標への進捗状況を、どのようにモニターし監督するか。
推奨される開示内容b)

気候関連のリスク及び機会を評価・管理する上での経営者の役割を説明する

気候関連問題に関する評価・管理における経営者の役割を説明するに際して、組織は以下の事項に関する情報を含めて検討する必要がある。

  • 組織が、管理職または委員会に対して気候関連の責任を付与しているか、付与している場合は、当該管理職または委員会が取締役会またはその委員会に報告しているか、さらにそれらの責任には気候関連問題の評価や管理が包含されているか。
  • 当該組織における(気候)関連の組織的構造の説明。
  • 経営者が気候関連問題に関する情報を受けるプロセス。
  • 経営者がどのように(特定の担当及び/または経営委員会を通じて)気候関連問題をモニターするか。

 

しかし、気候変動は、時間軸が超長期的であり、企業に対するインパクトは不確実性が高く、その検討とモニタリングは難易度が非常に高いです。責任者の任命と報告プロセスの策定だけでは、気候変動のリスクと機会を効果的に管理・監督ができるとは限りません。どのような点に注意する必要があるのでしょうか。

 

ここについては、世界経済フォーラムがPWCと協同で気候変動のガバナンスに関するガイダンス(How to Set Up Effective Climate Governance on Corporate Boards, Guiding principles and questions)を発行しており、8つの原則を提言していますので、紹介したいと思います。(世界経済フォーラムは、世界経済、政治、学究、その他の社会におけるリーダーたちが連携することにより、世界、地域、産業の課題を形成し、世界情勢の改善に取り組むことを目的とした国際機関。)

 

原則1:取締役会における気候変動に対する説明責任

  • 取締役会が気候変動に対する説明責任を負います。
    • それが明確となっていますか。
    • 取締役会の実効性評価の中で、気候変動も検討されていますか。

 

原則2:対象分野の知識

  • 取締役会は、気候変動を客観的に検討するために十分に多様で、知識を有する必要があります。
    • 十分な知識を有するかのギャップ分析を実施されていますか。
    • 継続的な教育を実施されていますか。
    • 気候変動という観点で重要な人物が退職された場合のサクセション・プラニングをされていますか。

 

原則3:取締役会の構成

  • 取締役会は、取締役会および各種委員会における気候変動の最も効果的な検討方法を決めます。
  • 気候変動は、あらゆる側面において十分に検討されていますか。
  • 社内取締役と社外取締役は、相互補完的な役割を果たしていますか。

 

原則4:重要なリスクと機会の評価

  • 取締役会は、気候変動の短・中・長期的なリスクと機会のマテリアリティ(重要性)を継続的に評価する必要があります。
  • マテリアリティの評価の中で、気候変動は十分に検討されていますか。
  • 気候変動は、時間軸が超長期的であり、企業に対するインパクトは不確実性が高いことから、シナリオ分析を実施されていますか。

 

原則5:戦略的な統合

  • 事業戦略において、気候変動の影響により事業環境が将来的に変わりうることを十分に認識し、シナリオ分析の結果を検討する必要があります。
  • シナリオ分析の結果を反映した気候変動戦略が事業戦略に織り込まれていますか。
  • 気候変動は、3つの防衛線に織り込まれていますか。

 

原則6:インセンティブ化

  • 取締役の報酬は、企業の持続的な成長とアラインされるべきです。気候変動を織り込む場合、その適切性を十分に吟味する必要があります。
  • 気候変動に関連する目標とその他の目標は、一貫性が保たれていますか。
  • 選定している気候変動に関連するKPIには、どのような利点と限界がありますか。その効果をどのように評価していますか。

 

原則7:報告と開示

  • 気候変動に関するリスク、機会と戦略的な意思決定は、一貫性と透明性のある形で開示されるべきです。財務報告書(例えば、アニュアル・レポート)又は統合報告書に含まれるべきであり、財務報告書と匹敵する内部統制を伴うべきです。
  • 気候変動に関する情報開示を実施していない場合、していないことのリスクを十分に検討していますか。

 

原則8:情報交換

  • 取締役会は、同業他社、規制当局、投資家その他のステークホルダーと定期的に情報交換をするべきです。

 

上記のように8原則は、気候変動をあらゆる側面において十分に検討するために配慮すべき点(取締役会の構成、シナリオ分析、報酬、情報開示)を提示しています。

 

8原則が示唆するように、気候変動のリスクと機会を効果的に管理・監督するためには、事業環境が将来的に変わりうることを認識し、シナリオ分析に基づき、ネットゼロの世界へのトランジション計画を策定、ステークホルダーに対して開示することが必要であり、それがまさに気候変動に関するガバナンスであると言えるのではないでしょうか。

 

執筆者:ESGバイオリン

 

 

 

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