海外機関のESG情報を隔月でお送りいたします。
ICGNは、コーポレートガバナンス・コード改訂(フォローアップ会議に参加)について、コメントを公表。ダイバーシティ方針の公表、Task Force on Climate-Related Financial Disclosures(TCFD)に沿った情報開示(プライム市場)、独立社外取締役1/3以上(プライム市場)、独立社外取締役が過半を占める指名・報酬委員会、事業ポートフォリオに関する情報開示に関する新規定を評価。一方、今後に向けて、情報開示は株主総会の前に有報にて英語で行うこと、政策保有株式に関する情報開示の強化、外部コンサルタントによる定期的な取締役会の実効性評価を提案。
https://www.icgn.org/sites/default/files/ICGN%20Remarks%20to%20Japan%20FSA_31%20March%202021.pdf
2021-24 戦略計画
PRIは、2021年4月に新しい3か年計画を公表。責任のある投資家(Responsible Investors)、持続可能な金融市場(Sustainable Markets)、全員のために裕福な世界(A Prosperous World For All)の3本の柱により構成。加入要件の厳格化、レポーティング様式の改訂、新興市場に対する支援強化などを予定。気候変動に加え、人権問題に注力する方針。
https://www.unpri.org/pri/pri-2021-24-strategy
https://www.unpri.org/download?ac=13269
株主提案に対する議決権行使ガイダンス
PRIは、2021年3月に株主提案に対して議決権を行使する際のガイダンスを発行。企業との対話の結果と関係なく(例えば、対話の結果が芳しくないため株主提案に賛成するのではなく)、明瞭な議決権行使原則の制定と原則に沿った議決権行使の重要性を強調。PRIのスチュワードシップに関するガイダンスであり、結果を重視するActive Ownership 2.0との整合性も重視。
Delivering net zero emissions in Japan
PRIは、2021年2月にVivid Economicsの調査に基づく2050年のネットゼロまでのロードマップを公表。政府は、2050年までに再生エネルギーを50-60%に引上げる方針を表明しているが、未だ新規の石炭火力発電所の建設を計画している。接続可能量に関わるルールの廃止や送電の整備など再生エネルギーの拡大への障壁の解消、石炭火力発電所の建設の中止等を推奨。産業においては、エネルギー効率を現在の年1%改善から年2%改善のペースに引き上げる必要があり、自動車については、内燃機関エンジンの使用を完全に中止する必要があると主張。カーボン価格の引き上げも提言。
https://dwtyzx6upklss.cloudfront.net/Uploads/t/e/i/pri_netzerobriefing2021japan_583956.pdf
Net Zero Company Benchmark
今後の対話や議決権行使の参考にするために、ClimateAction 100+が対話の対象とする企業について、10の指標を用いて、気候変動に対する対応状況を分かりやすく表示するNet Zero Company Benchmarkを2021年3月に公表。ClimateAction 100+は167社を対象としており、日本企業では、ダイキン工業、ENEOSホールディングス、日立製作所、本田技研工業、日本製鉄、日産自動車、パナソニック、スズキ、東レ、トヨタ自動車を対象としている。
10の指標は、以下の通り。
https://www.climateaction100.org/progress/net-zero-company-benchmark/(英語)
Progress Report 2020
ClimateAction 100+は、2020年のProgress Reportを2020年12月に発行。160社のCO2排出量が大きい企業との対話の進捗状況を報告。Net Zero Company Benchmarkを2021年に公表予定。そのデータによると、43%の企業が2050年までにネットゼロを達成するという目標を掲げているものの、スコープ3の排出を含む企業は10%に過ぎない。また、石油・ガスなど一部のセクターでは、2050年の目標と比較して、2020-2025年と2026-2035年の短中期のCO2削減目標の策定が進んでいない。BlackRock、InvescoとSSGAの世界最大級の運用機関が2020年に新しく加入。
https://www.climateaction100.org/wp-content/uploads/2020/12/CA100-Progress-Report.pdf
サステナビリティ報告に関する2020年9月の公開協議に対するフィードバック・ステートメント
IFRS財団の評議員会は、2021年4月にサステナビリティ報告に関する2020年9月の公開協議への反応と、評議員会が当該フィードバックにどのように対応をする予定であるかを要約した包括的なフィードバック・ステートメントを公表。
設立される新しい国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)は、
・投資家を始めとする金融市場の参加者の意思決定に重要性がある情報に焦点を当てる。
・他のESG事項についての投資家の情報ニーズも考慮するが、当初、気候関連報告に焦点を当てる。
・TCFDの確立された基準とともに、企業価値に焦点を当てたサステナビリティ報告についての主要な基準設定主体と協同して作業を進める。
・グローバルに整合的で比較可能なサステナビリティ報告のベースラインとなる基準を策定する。より広範なサステナビリティを捕捉する報告の要求事項のための柔軟性も提供する予定(「Building Blocks Approach」)。
IFRS財団の定款の修正案に対するコメント募集
新しい国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設置に向けて、IFRS財団の評議員会は、2020年4月にIFRS財団の定款の修正案を公表し、コメントを募集(2021年7月29日締切)。
ESGファンド、運用基準やデータ開示の義務付け検討
ゲンスラー委員長は7月7日、「持続可能性」の観点から投資するファンドについて、運用会社に対し運用方針の裏付けとなる基準や基礎データの開示を義務付ける規制を検討していると述べた。ESGファンドの人気が高まっているが、商品の基礎となる保有資産について投資家に誤解を与えるような情報を提供している可能性があると懸念している。
https://www.sec.gov/news/public-statement/gensler-amac-2021-07-07
新しい情報開示規制の導入を検討
ゲンスラー委員長が5月に米国下院歳出委員会の金融サービス・一般政府サブコミッティーに対するスピーチで気候変動とヒューマン・キャピタルの開示に関する規制の導入を検討したいと述べた。
https://www.sec.gov/news/testimony/gensler-2021-05-26
気候変動に関わる情報開示についてコメントを募集
SECが、気候変動に関わる情報開示の在り方について、2021年3月に市場参加者に対してコメントを募集。米国では、規制動向の影響などが重要である場合、アニュアルレポート等において気候変動に関する情報開示が求められる。SECの諮問委員会が、重要なESGリスクの開示に関わる基準の策定を推奨しており、SECは、気候変動に関わる情報開示の在り方を見直す第1歩を踏む。
https://www.sec.gov/news/public-statement/lee-climate-change-disclosures
https://www.sec.gov/files/potential-recommendations-of-the-esg-subcommittee-12012020.pdf
Corporate Sustainability Reporting Directive(CSRD)案の公表
欧州委員会は、2021年4月に非財務情報の報告に関する改定法案(Corporate Sustainability Reporting Directive(CSRD))を公表。既存のAccounting Directiveを加除修正する非財務情報開示指令(Non-Financial Reporting Directive(NFRD))を修正するもの。対象企業は、NFRDのように大規模企業だけではなく、EUにおける全上場企業(一部マイクロ企業を除く)に適用を拡大。また、NFRDでは適用対象外であった非上場の大規模企業も対象となる。日系企業も、EUに拠点を置く子会社が大企業に該当する場合には、適用対象となると考えられる。年次報告書のマネジメントレポート内でEUのサステナビリティ報告基準(今後策定)に沿った報告を義務付け、第三者による保証を求める。NFRDで求められる報告事項に加えて報告が求められる主な事項は、以下の通り。
NFRD(報告事項) | CSRD(主な追加報告事項) |
少なくとも環境、社会、雇用、人権の尊重、汚職・贈収賄の防止等に関連する下記の事項
① ビジネスモデル ② 方針 ③ 方針の結果 ④ リスクとそのマネジメント方法 ⑤ KPI |
サステナビリティに関連する
① ビジネスモデルと戦略 ② ターゲットと進捗状況 ③ 取締役会と経営の役割 ④ デューデリジェンス 開示情報は、以下を含むこと ① バリュー・チェーン ② インタンジブルズ(社会的・人的・知的資本) ③ 将来情報と過去情報、定量情報と定性情報 その他要件 ① ダブル・マテリアリティ(企業に影響を及ぼすサステナビリティ関連リスク(気候変動関連を含む)および社会及び環境に対する企業のインパクト)を考慮にいれた報告 ② EUのサステナビリティ報告基準(今後策定)に沿った報告 ③ (金融業者向けの)サステナビリティ開示規則 (SFDR)及びEUタクソノミー規制に沿った報告 |
2023年1月に開始する年度から適用開始となる見込み。
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=CELEX:52021PC0189
Sustainable Finance Disclosure Regulation(SFDR)
Sustainable Finance Disclosure Regulation (SFDR)が2021年3月より施行した。SFDRは、EUのサステナブル・ファイナンス行動計画の7「機関投資家の開示義務の明確化」を具現化した施策。適用対象はEU法上の金融市場参加者(投資運用)と金融アドバイザー(投資助言)であり、事業体および金融商品レベルでサステナビリティに関する情報開示が求められる。20のArticle(条項)で構成された本則と、開示の内容、方法および表示に関する細則や開示フォーマット/テンプレートなどを定めた細則(Regulatory Technical Standards、以下RTS)から成る。(RTSは未だドラフト段階であり、施行は2022年1月となる見込み。)
適用対象機関に対して、金融商品をサステナビリティやESGを考慮した3つのカテゴリーに区分し、区分ごとにサステナビリティへの主要な悪影響(Principal Adverse Impacts:PAI)をいかに考慮しているかなどの情報を事業体と商品レベルで開示するよう求めている。
第6条:第8条、第9条に該当しない全ての商品
第8条:環境・社会的特性を促進するがサステナブル投資を中核的な目的としない商品
第9条:サステナブル投資を目的とした商品
EUR-Lex – 02019R2088-20200712 – EN – EUR-Lex (europa.eu)
https://eur-lex.europa.eu/legal-content/EN/TXT/?uri=celex:32020R0852
環境・人権デューデリジェンスの義務化
サプライチェーンにおける環境・人権デューデリジェンスを義務化する方針が2021年3月にEU議会によって可決。法案は、今年の後半に提示される見込み。EUで営業するEU外の企業も対象となる。
Sustainable Corporate Governance規制(案)
サステナブル・ファイナンス行動計画の10「サステナブルなコーポレート・ガバナンスの強化と資本市場における短期主義の抑制」を具現化するもの。
提案されている新規制は、以下の通り。
新規制案の目的は、サステナビリティをコーポレート・ガバナンスの枠組みに埋め込み、取締役会に対して、ステークホルダーの利益とサステナビリティのリスク・機会を経営に織り込むよう動機づけすること。また、経営の意思決定をより長期的な目線で行うことを促す、という目的もある。
2021年2月にパブリック・コメントが終了し、パブコメに対するフィードバック待ち。
執筆者:ESGバイオリン
本資料は弊社の著作物であり、著作権法により保護されております。弊社の事前の承諾なく本資料の一部または全部を引用、複製または転送等により使用することを禁じます。