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海外機関のESG情報(2022年1月)

 

海外機関のESG情報を隔月でお送りいたします。

 

IFRS (International Financial Reporting Standards)

国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立

国際会計基準を策定するIFRS財団が、統一の国際ESG開示基準を策定するために国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)の設立を正式に発表した。本拠地は、ドイツのフランクフルトに置くが、モントリオール、ロンドン、サンフランシスコにもオフィスを置き、グローバルに展開する。また、CDSB(Climate Disclosure Standards Board)とValue Reporting Foundation(Integrated Reporting FrameworkとSASB Standards)と統合する。北京と東京のオフィスも検討中。気候変動の開示基準とサステナビリティ金融情報の一般的な開示基準のプロトタイプを同時に公表しており、スピード感をもって動いている。

https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2021/11/ifrs-foundation-announces-issb-consolidation-with-cdsb-vrf-publication-of-prototypes/

https://www.ifrs.org/groups/technical-readiness-working-group/#resources

 

ISSBの会長選定

ダノン社の元会長兼CEOであるEmmanuel FaberがISSBの会長に選定された。Faber氏は、ステークホルダー資本主義の支持者として知られる。ダノン社は、Faber氏のリーダーシップの下、2020年6月に、「Entreprise à Mission(使命を果たす会社)」モデルを採択した。会社の目的(ミッション)とそれに沿った、社会的、環境的な分野での目標が定款に記載され、その目標の達成については、専任のミッション委員会と独立した第三者が監督するというもの。その後、業績不振で解任されたが、サステナビリティ情報の資本市場にとっての重要性を唄い、ダノン社は、投資家がサステナビリティ要因の企業価値の評価に対する影響をより理解できるような取組を実施している。Faber氏は、その他、One Planet Business for BiodiversityやG7 Business for Inclusive Growthなどの団体を設立したり会長を務めたりしている。

https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2021/12/emmanuel-faber-appointed-to-lead-the-issb/

 

SEC(Securities Exchange Commission)

株主提案を除外できるアジェンダについての法律意見

SECは、企業が株主提案を除外できるアジェンダについての法律意見(Staff Legal Bulletin)14L (CF)を発表。また、トランプ政権時に発表されたStaff Legal Bulletin Nos. 14I、14J 、14Kを廃止。

株主提案が求める内容が、通常業務の範囲内の場合、企業がその株主提案を除外できるが、その株主提案が重要な社会的政策に関わる場合は、除外できないという例外措置が設けられている。トランプ政権時に発表された法律意見のStaff Legal Bulletin 14Jと14Kは、企業にとって重要な政策と解釈したが、今回の法律意見は、一般的に重要な政策という解釈に変更。更に、トランブ政権時に発表された法律意見では、特定の方法、時間軸、その他詳細な点まで定める株主提案は、企業の経営裁量権を侵害すると解釈したところ、今回の法律意見では、必ずしもそうとは限らないと解釈する。株主提案の内容が企業の経営裁量権を不適切に侵害するかどうかを個別に判断する。

トランプ政権の下で除外されたESGに関する株主提案がしやすくなると見られる。

https://www.sec.gov/corpfin/staff-legal-bulletin-14l-shareholder-proposals

 

会社提案の取締役候補と株主提案の取締役候補の両方に対して賛成投票可能に

委任状により議決権を行使する場合も、株主総会の当日に参加する場合と同様に、会社提案の取締役候補と株主提案の取締役候補の両方に対して賛成投票できるように議決権行使のルールが変更された。2022年8月31日以降に開催される株主総会に適用される。

https://www.sec.gov/news/press-release/2021-235

 

2020年に採択された議決権行使助言会社に対するルールの撤回

2020年に採択された議決権行使助言会社に対するルールを撤回すると2021年11月17日に公表。撤回されるルールは、①顧客である投資家に助言を提供すると同時に助言の対象企業に提供すること、②対象企業のコメントを投資家に通知すること、である。撤回する理由は、議決権行使助言会社に対するコスト負担軽減と独立性の確保。30日間のパブリック・コメントの期間を設ける。

https://www.sec.gov/news/press-release/2021-236

 

ICGN(International Corporate Governance Network)

少数株主の保護に関するレタ

ICGNが日本の金融庁と法務省に対して、M&Aにおける少数株主の保護に関するレターを提出。少数株主を守るために、企業買収において、少数株主の株式を強制的に買い取ることができる水準を66.7%からグローバル・スタンダードの90%に引き上げるべきであると主張。

https://www.icgn.org/sites/default/files/ICGN%20Letter%20to%20Japan%20-%20FSA%20%26%20MoJ%20-%20Minority%20shareholder%20protection%20in%20Japan%20-%20Nov%2021.pdf

 

株主提案に関するペーパー発行

ICGNが株主提案に関するペーパーを発行。最近の株主提案のトレンドに加え、株主提案をするために必要な株式保有基準その他のハードルや株主提案の内容に関するベストプラクティスを述べる。

https://www.icgn.org/sites/default/files/ICGN%20Shareholder%20Proposal%20Viewpoint%20review%20021221%20Final_0.pdf

 

Climate Action 100+

Ceresが気候変動に関する株主提案についてのペーパーを発行

Climate Action 100+が、米国のESG団体であるCeresが執筆した気候変動に関する株主提案についてのペーパーに対してリリースを出した。賛成率が50%を超える気候変動に関する株主提案が2020年の7件から2021年は15件に倍増。Blackrock(2020年:10%、2021年:41%)やVanguard(2020年:14%、2021年:37%)などの大手運用会社が賛成した議案が大きく増えたことが大きな要因。

https://www.climateaction100.org/news/as-climate-risks-skyrocket-largest-asset-managers-vote-for-more-climate-related-shareholder-proposals-tipping-support-to-record-levels-in-2021/

 

Carbon Trackerの会計と気候変動に関するイベント

Climate Action 100+がCarbon TrackerのCOP26の会計と気候変動に関するイベントについてリリースを出した。イベントでは、Carbon Trackerが9月に発行したレポート「Flying Blind: The glaring absence of climate risks in financial reporting」が最初に紹介され、その後にパネルディスカッションが実施された。レポートは、Climate Action 100+の対象企業が中心である107社の2020年度の財務諸表と監査報告書が気候変動を考慮(例えば、設備の耐用年数や減損の判定における仮定)しているかを検証した。企業の70%が財務諸表において気候変動を考慮しておらず、監査人の80%が監査報告書において気候変動に言及していないという結果になった。また、企業の72%が財務諸表とMD&Aやサステナビリティレポートが整合的でないという。パネルディスカッションでは、ネットゼロを宣言している場合、財務諸表もネットゼロを前提とするべきと念が押された。

https://www.climateaction100.org/news/the-new-hot-topic-accounting-for-climate/

 

Climate Action 100+が鉱業企業とネット・ゼロの基準策定

Climate Action 100+が鉱業企業8社(Anglo American、BHP、Glencore、Rio Tinto、South32, Teck Resources、Vale、Vedanta)と協同でネット・ゼロの基準を策定する。基準は、Climate Action 100+のNet Zero Company Benchmarkと整合させるが、以下のテーマをカバーする。(Net Zero Company Benchmarkは今後の対話や議決権行使の参考にするために、Climate Action 100+が対話の対象とする企業について10の指標を用い気候変動に対する対応状況を分かりやすく表示。)

  • グリーン売上
  • スコープ3の排出目標
  • 5°C と整合する目標の設定
  • 脱炭素化に向けた資本配分・投資

https://www.climateaction100.org/news/investors-and-diversified-mining-companies-join-forces-to-develop-a-net-zero-standard-for-the-sector-in-a-world-first/

 

PRI(Principles for Responsible Investment)

PRIの新しいCEO

David Atkinが2021年12月10日よりPRIの新しいCEOになる。現在のCEOであるFiona Reynoldsは、オーストラリアに戻るために退職する。David Atkinは、オーストラリアのアセットオーナー3社(Cbus、ESS Super、JUST SUPER)のCEOの経験があり、直近ではAMP CapitalのDeputy CEOを務めていた。また、2009~2015年にPRIのBoard Directorを務め、ESGについて豊富な知識を有する。

https://www.unpri.org/news-and-press/pri-appoints-david-atkin-ceo/8861.article

 

公平な税務に関するディスカッション・ペーパー発行

PRIが公平な税務に関するディスカッション・ペーパー「What is tax fairness and what does it mean for investors?」を発行した。公平な税務とは、企業がアグレッシブな節税を避けるだけではなく、税収でグローバルな社会的な目標を達成できるようにすることを意味する。ペーパーは、マクロのレベルで公平な税務が必要である理由を考察し、PRIの今後の取り組みを提示する。

https://www.unpri.org/governance-issues/what-is-tax-fairness-and-what-does-it-mean-for-investors/9077.article

 

EU(European Union)

サステナブル・コーポレート・ガバナンス指令のドラフト遅延

新しいサステナブル・コーポレート・ガバナンス指令のドラフトが2021年Q4に公表される予定であったが、遅れている。いつ公表されるかは不明。新指令(案)は、①企業に対して、サステナビリティに関わる「デューデリジェンス」を義務づける、②取締役に対して、企業と影響を受ける従業員・環境・その他ステークホルダーの長期的な持続可能性に関連する、全てのステークホルダーの利益を考慮することを義務付ける。

https://ec.europa.eu/info/law/better-regulation/have-your-say/initiatives/12548-Sustainable-corporate-governance_en

 

SFDRのRTS施行が延期

Sustainable Finance Disclosure Regulation (SFDR)の開示の内容、方法および表示に関する細則や開示フォーマット/テンプレートなどを定めた細則(Regulatory Technical Standards(RTS))の施行が2022年7月より2023年1月に延期される。SFDRは、金融市場参加者(投資運用)と金融アドバイザー(投資助言)に対して、事業体および金融商品レベルでサステナビリティに関する情報開示を求める。延期する理由は、スムーズな導入プロセス。

https://www.eiopa.europa.eu/document-library/letter/letter-eu-commission-ep-and-council-sfdr-rts

 

執筆者:ESGバイオリン

 

 

 

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