海外機関のESG情報を隔月でお送りいたします。
EUタクソノミーと天然ガス・原子力発電
EUテクソノミーを補足する委託法令のドラフトについて、天然ガスと原子力発電について、一定の条件の下、EUタクソノミーに含めることが決定された。天然ガスと電子力発電に対するエクスポージャーが分かるようにする。天然ガスは、石炭と比較するとCO2排出が少ないものの、石油資源としてCO2が排出され、原子力発電は、放射性の廃棄物が出ることから、論争の的になっていた。欧州員会が2022年2月に採択をした。採択の4か月後に施行され、2023年1月1日より適用される。その4カ月間の間にEUメンバー国とEU議会が反対意見を示す機会がある。
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_711
欧州中央銀行が銀行の気候変動ストレス・テストを実施
欧州中央銀行が銀行の気候変動ストレス・テストを実施する。気候変動による金融・経済的なショックに対する銀行の準備体制を理解することが目的であり、銀行の自己資本を直接的に影響しない。ストレス・テストは、①銀行の気候変動ストレス・テストの能力に関する質問状、②銀行のビジネス・モデルのサステナビリティとCO2排出量の多い企業に対するエクスポージャーの他社比較、③銀行の気候変動に対する影響を評価するボトムアップのストレス・テストからの3部構成。気候変動リスク等に係る金融当局ネットワーク(NGFS)のシナリオを活用する。結果は、7月に発表予定。
ESMAがESG格付・ESGデータ会社に関する事実情報を募集
European Securities and Markets Authority (ESMA)は、ESG情報の市場特性を捉えるために、ESG格付会社とESGデータ会社に関する事実情報を募集している。対象は、①ESG格付会社・ESGデータ会社、②ESG格付・ESGデータの利用者、③ESG格付・ESGデータの対象企業。欧州員会も後日、ESG格付・ESGデータの活用に関する市中協議を予定している。
ESMAがサステナブル金融のロードマップを公表
ESMAが、サステナブル金融のロードマップ(2022~2024年の行動計画)を公表。①グリーンウォッシング防止、②各国当局とESMAのESG能力構築、③ESG市場のモニタリングと優先領域を明確化し、71件の行動計画をESMAの活動(①統一ルールブック、②監督の統一化、③リスク評価、④直接監督)と監督対象のセクター(①投資運用、②投資サービス、③発行体の情報開示とガバナンス、④ベンチマーク、⑤レーティング、⑥取引執行と取引執行後、⑦金融イノベーション)のマトリックスに沿って整理している。
ISSBが副会長と特別アドバイザーを選任
Sue LloydがISSBの副会長に選任された。Lloyd氏は、国際会計基準審議会(IASB)の副会長である。その他、Janine Guillotが特別アドバイザーに選任された。Guillot氏は、Value Reporting FoundationのCEOであり、その前はSASB(Sustainability Accounting Standards Board)のCEOを務めていた。
GRIの新CEOはISSBと対話をしたい考え
Global Reporting Initiative(GRI)の新CEOであるEelco van der Endenは、ISSBと対話をしたい考えであると言った。EUがGRIと共同開発中である欧州サステナビリティ報告基準(ESRS)は、ISSBと競合するのではなく、補完するとGRIによるインタビューで言った。EUのサステナビリティ報告基準は、ダブル・マテリアリティであるのに対して、ISSBは、シングル・マテリアリティである。昨年、GRIの代理のCEOであるEric Hespenheideは、ISSBが経済的にマテリアルな課題のみに焦点を当てることは、サステナビリティのインパクトについて、完全な透明性を提供できないと言った。
SASBがDirectors’ Guide to the SASB Standardsを発行
SASB(Sustainability Accounting Standards Board)は、「Directors’ Guide to the SASB Standards」を発行。各産業について、企業の経済的パフォーマンスに最も影響するESG課題に関する質問を掲載。取締役がマネジメントと対話をする際に活用することによって、重要なESG課題を捉え、企業の対応の実効性を評価できる。
https://www.sasb.org/wp-content/uploads/2021/11/SASBVRF-Directors-eng-Guide-110821.pdf
信用格付会社とESGに関わるリスク
SECは、信用格付会社に関する年次報告書において、ESGに関わるリスクを幾つか指摘した。信用格付けにおけるESG要素の考慮にあたって、メソドロジーを守らない、一貫性を持って適用しない、ESG要素の適用について十分な開示をしない、関連会社又は第3者のESGデータの利用に対する内部統制が不十分である、というリスクが指摘された。その他、格付サービスと格付以外のESG商品・サービスの両方を提供する場合の利益相反のリスクが挙げられた。
https://www.sec.gov/files/2022-ocr-staff-report.pdf
SECがFASBと気候変動についてコメント
Financial Accounting Standards Board(FASB)が昨年、基準策定プロセスと基準策定アジェンダについて市中協議を実施した。その市中協議を受けて、SECの会計のヘッドであるMunter氏がスピーチをし、その中で、気候変動について言及。会計、情報開示と財務報告についてFASBが思慮深い行動をとる機会があるだろうとコメント。リスクと不確実性の情報開示義務をその一例として挙げた。
https://www.sec.gov/news/statement/munter-statement-fasb-agenda-consultation-02222022
米国の労働省が気候変動リスクから年金の安全性を確保するための行動を募集
2021年5月の気候関連財務リスク対策強化の大統領令が、労働省に対して、気候変動リスクから労働者の年金の安全性を確保するための行動を特定するよう指示。その行動について、コメントを募集。
https://www.dol.gov/newsroom/releases/ebsa/ebsa20220211
2021年進捗報告を公表
Climate Action 100+の2021年進捗報告が公表された。2021年9月時点で、対象企業167社中111社が2050年までにネットゼロの目標を掲げている。Climate Action 100+のローンチ直後の2018年には、5社に過ぎなかった。2021年に新たに目標を掲げた企業は、Bluescope、Ecopetrol、Enel、Engie、KEPCO(韓国)、LyondellBasell、日産自動車、Sasol、Sinopecを含む。今後の対話や議決権行使の参考にするために、ClimateAction 100+が対話の対象とする企業について、10の指標を用いて、気候変動に対する対応状況を分かりやすく表示するNet-Zero Company Benchmarkを2021年3月に公表。企業の52%がネットゼロの目標を掲げていたものの、中間目標を掲げている企業は殆どなかった。Climate Action 100+の目標に関連し、Climate Action 100+の参加している投資家による株主提案14件のうち、6件が投票の過半数を獲得した。Climate Action 100+は、ローンチ当初は5年という期間を設定していたが、2022年末に活動を終了するのではなく、長期戦略を2022年中に公表する予定である。
気候変動リスクに関する対話と議決権行使のガイドライン
Climate Action 100+の創業投資家ネットワークの一つであるCeresが気候変動リスクに関する対話と議決権行使のガイドラインを発行した。気候変動について企業と対話し、取締役選任議案を精査する際に検討するべきトピックをカバーする。TCFDの推奨とClimate Action 100+のNet-Zero Company Benchmarkの指標に基づく。
企業報告の質と法律的効果の強化
欧州委員会が企業報告の質と法律的効果の強化に関する市中協議を実施しており、ICGNがレターを送付。サステナビリティ報告が含まれていないことを指摘している。その他、監査の質に関する指標、企業の支払い能力に関する報告の普及を推奨。また、投資家による働きかけの重要性を強調している。
株式上場法に関する市中協議に対するレター
欧州委員会が株式上場法について市中協議を実施、ICGNがレターを公表。市中協議の目的は、株式市場を発行体にとってより魅力的にし、中小企業が株式上場をしやすくするということ。ICGNは、デュアル・クラス・シェアやSPACについて、発行体にとってより魅力的であっても、投資家保護の重要性を強調。
PRIがトランジション計画の議決権行使に関するガイダンスを発行
PRIがトランジション計画の議決権行使に関するガイダンスを発行。トランジション計画は、①株主提案で、企業がネットゼロへのトランジション計画を策定し、株主総会にて承認を諮るよう求めるケースと、②企業が自発的にネットゼロへのトランジション計画を策定し、株主総会にて承認を諮るケース(「Say on Climate」)の2種類のケースがある。それぞれのケースについて、議決権行使に当たってのアドバイスをし、参考資料を提供している。企業が自発的に株主総会に承認を諮る場合、経営者に賛成行使する投資家が多いため、トランジション計画が不十分であっても高賛成率を獲得する可能性があり、注意を要すると強調。
https://www.unpri.org/stewardship/climate-transition-plan-votes-investor-briefing/9096.article
PRIが多様性、公平性等とインクルージョンに関するペーパーを発行
PRIが多様性、公平性とインクルージョンに関するペーパーを発行。多様性だけでは不十分であり、公平性とインクルージョンも兼ね備えて始めて経済的パフォーマンスに繋がるという。また、性別だけではなく、人種・民族などの他の項目の多様性・公平性・インクルージョンが必要であると主張。機関投資家は、ポートフォリオ企業と自社において、インクルーシブな企業文化、ビジネス・モデルと社会の3つの軸で多様性、公平性とインクルージョンを推し進めるべきであると言う。投資の意思決定、企業との対話と議決権行使、政策策定者とステークホルダーとの対話のそれぞれについて、アドバイスを提供している。
PRIが、投資家向けに気候変動リスクマネジメントに関する簡単なガイダンスを発行
PRIが、投資家向けに気候変動リスクマネジメントに関する簡単なガイダンスを発行。TCFDの各柱について、投資家目線で簡単に解説をし、文献のリストを提供している。
https://www.unpri.org/climate-change/climate-risk-an-investor-resource-guide/9329.article
執筆者:ESGバイオリン
本資料は弊社の著作物であり、著作権法により保護されております。弊社の事前の承諾なく本資料の一部または全部を引用、複製または転送等により使用することを禁じます。