海外機関のESG情報を隔月でお送りいたします。
ICGNが報酬とパフォーマンスの開示に関するレターをSECに送付
SECが、報酬とパフォーマンスの開示に関する2015年の規制案に対するコメント募集を再開したことを受け、ICGNがSECにレターを送付。4つのテーマを指摘する。①エグゼクティブの報酬は、一般社員の報酬に比べて大幅に増大している、②一般社員はエグゼクティブに比べてコロナ禍により大きな打撃を受けている、③Say on Payの会社議案に対する賛成率が低下する一方、ESGに関する株主議案に対する賛成率が上昇している、④投資家がESG指標を報酬制度に織り込むことを求める。報酬の開示については、TSRなどの株価リターンの指標に過度に依存すべきでないであり、パフォーマンスに対する報酬であることを明らかにするために、投下資本に対する利益といった指標を用いることを推奨する。
https://www.icgn.org/us-sec-re-reopening-comment-period-pay-versus-performance
ICGNがドイツのコーポレート・ガバナンス・コードの改訂(案)に対するコメントを公表
ICGNがドイツのコーポレート・ガバナンス・コードの改訂(案)に対するコメントを公表。ICGNは、ドイツのコーポレート・ガバナンス・コードの改訂(案)について、サステナビリティのガバナンスに関する規定の拡充を評価する。改訂(案)は、執行役会(取締役会)は、経済と環境・社会の課題のバランスを図るべきであるとする。ICGNは、「バランス」(「Ausgleich」)という言葉の説明が不十分であるとする。
https://www.icgn.org/germany-rk-german-cg-code-consultation
アンチ・マネーローンダリングに関するICGNの意見書
ICGNがアンチ・マネーローンダリングに関する意見書(Viewpoint)を発行した。ロシアによるウクライナの侵攻を受け、ロジアに対する制裁からアンチ・マネーローンダリングに焦点が当たるだろうという。意見書は、グローバルなアンチ・マネーローンダリング体制の概要を説明し、大量の資金と労力をかけている割には、余り効果的でないことを指摘する。口座の最終受益者のデータベースの公開の必要性を訴える。また、スチュワードシップの中で投資家が確認すべき質問を提示する。
Climate Action 100+がPRIと共同で航空業界対応案(更新版)を発行
Climate Action 100+がPRIと共同で航空業界対応案(更新版)を発行した。地球温暖化を1.5度に抑えるために航空業界が取る必要のある行動を明確化。持続可能な航空燃料の利用を大きく拡大する必要があるという。2020年では、持続可能な航空燃料は0.1%以下を占めていたが、2030年には18%に引き上げる必要がある。その他、航空への需要を抑える必要がある。①ビジネス目的の航空の利用を2019年の水準に抑える、②レジャー目的の6時間以上の長距離航空の利用を2019年の水準に抑える、③可能な範囲で鉄道の利用を促進する。航空業界は、これまでのようにカーボン・オフセットに頼らずに、GHG排出量の削減に努める必要があるという。投資家は、航空業界のロビー活動が1.5度に適合するよう促すべきであるとする。
Climate Action 100+が北米企業に対する重要な株主提案を選定
Climate Action 100+は、北米企業に対する株主提案のうち、Climate Action 100+の対象企業で温室効果ガス(GHG)排出量を削減し、気候変動に関するガバナンスと情報開示を改善し、ネット・ゼロを達成するという目標に沿った提案を選定・公表した。2022年3月15日現在、3社に対する株主提案を選定している。Berkskshire Hathaway Incでは、TCFDに沿った情報開示が求められている。Valero Energyでは、温暖化を1.5度に抑えるという目標に沿った短期・長期のGHG削減目標の設定とその目標を達成するための計画策定を求める提案。Imperial Oilでは、石油・ガスの新規の探索・開発に関わる設備投資を中止するよう求めている。
上記に加え、株主提案ではないが、気候変動の影響が財務諸表に反映されていないとして、建材企業のCRH社の会社提案の議案3つ(アニュアルレポートの承認、監査委員会の会長の継続選任、監査法人の継続選任)に対してスイスの投資家であるSarasin Partnersが反対行使することにも注目している。
Climate Action 100+がNet Zero Company Benchmark第2回を公表
Climate Action 100+がNet Zero Company Benchmark第2回を公表。今後の対話や議決権行使の参考にするために、ClimateAction 100+が対話の対象とする企業について、10の指標を用いて、気候変動に対する対応状況を分かりやすく表示する。69%の企業がネット・ゼロへのコミットメントを公表しているが、温暖化を1.5度に抑える中間目標を設定している企業は17%に過ぎない。長期的なGHG排出削減の目標に沿った設備投資計画を有する企業は5%に過ぎない。温暖化を1.5度に抑えるためには、企業は脱炭素化を加速するべきとしている。
SECが気候変動リスクに関わる情報開示を義務化
SECが気候変動リスクに関わる情報開示を義務化する規制案を公表。気候変動リスクに関わるガバナンス、リスク・マネジメント、戦略、GHG排出量をForm10-K(アニュアルレポート、日本の有価証券報告書に相当)に開示する必要がある。また、目標と移行計画を策定している場合、開示する必要がある。GHG排出量については、Scope1と2の開示を義務化。重要な場合とScope3の排出量について目標を設定している場合は、Scope3の排出量の開示も義務化。GHG排出量については、第3者による保証を求める。更に、財務諸表への影響を財務諸表へ注釈する必要がある。
https://www.sec.gov/news/press-release/2022-46
https://www.sec.gov/rules/proposed/2022/33-11042.pdf
SECが2022年検査の優先領域を公表
SECが2022年検査の優先領域を公表した。今年の検査では、私募ファンド、ESG投資、個人投資家の保護、情報セキュリティ、新興技術、暗号資産に焦点を当てる。ESG投資については、ESGへのアプローチが正確に情報開示されているか、議決権行使が行使方針とESGに関わる情報開示と適合しているかなどを確認する。
https://www.sec.gov/news/press-release/2022-57
欧州委員会がコーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令案を公表
欧州委員会がコーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令案を公表。一定の規模を有する企業に対して、バリュー・チェーンにおける人権・環境 デューディリジェンス に関する義務を負わせるものである。デューディリジェンスの対象は、自社、子会社及び確立したビジネス関係を築いているバリュー・チェーンにおける人権及び環境のリスクである。デューディリジェンスは具体的には、①デューディリジェンスに関する基本方針の制定、②人権及び環境に関する実在する又は潜在的な負の影響の特定、③実在する負の影響に対する抑止・是正・停止措置、④苦情処理手続の策定及び実行、⑤デューディリジェンスの方針及び各措置の有効性についてのモニタリング、⑥デューディリジェンスの取組みについての公表が求められる。また、欧州企業、非欧州企業いずれも大企業は、パリ協定に基づいた「1.5 度目標」を達成するための計画が求められる。更に、指令案では、取締役が企業の事業遂行の決断にあたり、人権、気候変動又は環境に及ぼす影響を含むサステナビリティ課題についても考慮に入れることを求める。
https://ec.europa.eu/commission/presscorner/detail/en/ip_22_1145
https://ec.europa.eu/info/sites/default/files/1_1_183885_prop_dir_susta_en.pdf
サステナブル・ファイナンス開示規制(SFDR)の細則を公表
サステナブル・ファイナンス開示規制(Sustainable Finance Disclosure Regulation 略称SFDR)の開示の内容、方法および表示に関する細則や開示フォーマット/テンプレートなどを定めた細則(Regulatory Technical Standards(RTS))の最終ドラフトが公表された。施行は2023年1月より。SFDRは、金融市場参加者(投資運用)と金融アドバイザー(投資助言)に対して、事業体および金融商品レベルでサステナビリティに関する情報開示を求める。RTSは、運用会社が18のサステナビリティ指標(環境:9、社会:5、ソブリン(国家):2、不動産:2)について情報開示を義務付ける。その他、22の任意の環境指標、24の任意の社会指標を指定している。
国際サステナビリティ基準審議会(ISSB)理事の選任
ISSB理事の選任プロセスが開始された。会長、副会長、アドバイザーが既に決定されており、残り12名の理事を選任する必要がある。プロトタイプが既に公表されている気候変動と一般的なサステナビリティ開示基準のドラフトは、会長と副会長だけで公表できる。しかし、受領したコメントを議論し、最終バージョンを発行するためには、8名の定足数が必要である。そのため、6名の理事の選任を優先させ、残り6名の選任はその後行う。
https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2022/02/update-on-appointments-to-the-inaugural-issb/
ISSBがGRIと協働の覚書を締結
ISSBがGRI(Global Reporting Initiative)と協働の覚書を締結した。お互いの委員会に参加し、基準設定活動をお互いに適合させる。協働することによって、サステナビリティ報告について2つの柱を構築する。第一の柱は、投資家向けで、企業価値に焦点を当てたもの(ISSBのIFRS Sustainability Reporting Standards)であり、第二の柱は、複数のステイクホルダーのために企業の環境・社会に対するインパクトを見るもの(GSSB(Global Sustainability Standards Board)のGRI Standards)である。また、両方の柱はお互いに適合させる。
https://www.ifrs.org/news-and-events/news/2022/03/ifrs-foundation-signs-agreement-with-gri/
SASBをIFRSサステナビリティ基準策定に織り込む方針
ISSBは、SASBの産業基準アプローチをIFRSサステナビリティ基準の基準策定に織り込む方針を明らかにした。IFRSサステナビリティ基準の産業基準部分は、SASBに基づいて策定する。また、一般的なサステナビリティ基準(案)は、IFRSサステナビリティ基準がない場合、SASBを活用するよう定めている。SASBを傘下に持つValue Reporting FoundationがIFRS Foundationに吸収された後は、ISSBがSASBの策定と管理の責任を有する。
IFRSサステナビリティ基準(気候変動に関する開示基準、一般的なサステナビリティ開示基準)のドラフトが公表
既にプロトタイプが公表されているIFRSサステナビリティ基準(気候変動に関する開示基準、一般的なサステナビリティ開示基準)のドラフトが公表された。コメント期間の期限は、2022年7月29日。年後半にコメントを確認し、年末までに正式版を公表する予定である。
PRIがダイベストメントに関するガイダンスを発行
PRIがダイベストメントと対話の選択肢に関するガイダンスを発行した。ネット・ゼロにコミットした投資家は、化石燃料などの企業を売却するよう圧力がかかる。しかし、売却はGHGの排出量の削減に繋がらず、対話と議決権行使のスチュワードシップの方がサステナビリティ上の結果に繋がる可能性が高いとする。ダイベストメントは、価値観の適合性を図るための手段となるが、企業行動が変わるかどうかは疑問があり、ESGリスクの低減が目的の場合は、スチュワードシップの方が効果的であるとする。
PRIがEUのコーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令案に対するコメントを公表
PRIがEUのコーポレート・サステナビリティ・デューディリジェンス指令案に対するコメントを公表。コメントの内容としは、①EUサステナブル・ファイナンス規制との適合性確保、②対象企業が不十分、③曖昧な表現、④バリュー・チェーン全体に渡る適切な契約条項、⑤取締役の責務に関する規定を強化するべき、⑥取締役の報酬とサステナビリティに関する規定を強化するべき。
PRIが日本の電力セクターとネット・ゼロに関するメモを発行
PRIが日本の電力セクターとネット・ゼロに関するメモを発行した。電力はGHG排出量が最も大きいセクターである。OECDの自律的機関である国際エネルギー機関(International Energy Agency略称IEA 在パリ)のNet Zero by 2050のレポートは、日本を含む先進国は、電力セクターを2030年までにネット・ゼロにする必要があるとする。しかし、日本は引き続き石炭火力発電を本格的に活用する予定である。第6エネルギー基本計画では、再生可能エネルギーが総発電量に占める割合を現在の14%から2030年度に36-38%まで引き上げる計画であるが、大規模な太陽光・風力発電にはいくつかの障壁を取り除く必要がある。原子力発電は2030年度に20-22%を占める計画であるが、この目標を達成できない場合は、石炭火力発電の割合が19%を上振れるリスクが高い。PRIは、電力セクターを目標通りに脱炭素化するための実現可能性のレポートを発行するよう日本政府に声をかけている。
https://www.unpri.org/download?ac=16025
PRIがEUにおけるサステナビリティに向けた法規制の在り方についてのペーパー発行
EUの法規制上は、投資家は、経済的な便益がある場合のみ、環境・社会を目的として投資することができる。従って、EUのサステナビリティ目標の追及とEUの金融規制の間にギャップが存在する。このペーパーは、以下の政策を提言する。
https://www.unpri.org/download?ac=16174
執筆者:ESGバイオリン
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