日本シェアホルダーサービス株式会社
チーフコンサルタント 藤島 裕三
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5月16日、第27回となる「金融庁スチュワードシップ・コード及びコーポレートガバナンス・コードのフォローアップ会議」(以下、フォローアップ会議)が開催された。コーポレートガバナンス・コード(以下、CGコード)の再改訂案を議論した昨年3月以来の開催で、討議の模様は公式YouTubeチャンネルでリアルタイム配信された。
当日の議事としては3つのテーマ、①CGコード再改訂後の中間点検、②持続的な成長に向けた課題、③企業と投資家との対話に係る課題、が金融庁ウェブサイトで事前に公表された。以下、①~③のそれぞれについて、金融庁事務局からの資料説明における問題提起、それを受けたフォローアップ会議委員によるコメントを概観する。
説明資料においては、CGコード再改訂を含むガバナンス改革の成果として、プライム市場上場企業における独立社外取締役の比率向上、指名・報酬委員会の設置促進が挙げられた。一方で課題としては、企業側からは「コードへの対応が形式的になっている」「企業価値や『稼ぐ力』の向上につながっているか」、投資家側からは「充実した対話の実現に向け、一層の改革が必要」「現預金・内部留保の一層の活用などを検討すべき」と指摘された。資料においては実証研究の整理、企業へのインタビューについても報告された。
上記課題につきフォローアップ会議委員からは、再改訂でCGコードが執行マターまで及んだことが形式的対応につながっており、これ以上の細則化については否定的である旨のコメントが目立った。ガバナンス改革の成果については一定の評価をしているものの、PBR1倍割れの企業が未だ多いこと、ROEやROICの改善は停滞していることなどから、全体としてパフォーマンスに表れていないことが問題視された。なお一部委員からはプライム市場上場会社に「社外過半数を目指すべき」「指名委員会等設置会社を義務付けるべき」といった提言もされており、今後の議論における影響度が注目される。
事務局からは資料説明を通じて、日本企業の成長投資(設備投資、研究開発・知財投資、人的投資等)が小幅な伸びに留まっていること、その結果として足元の内部留保および現預金が高水準に積み上がっていることが報告された。特に知的財産や人的資本に対する投資の重要性に関して、企業の認識が投資家と比べて低いことを問題視している。また日本企業の配当や自社株買いが、米英と比べて過大な水準ではないことも指摘された。
会議の議論においては成長投資、特に人的資本に対する意識の不足につき、多くの委員から懸念が示された。内部留保の積み上がりは「稼ぐ力」に自信がない現れと厳しく批判された一方、現下のコロナ感染症や地政学リスクに備える必要性に理解を示すコメントもあった。この点、資本政策は短期と中長期で策定、説明されるべきとの指摘が的を射ているかもしれない。また投資全般について回収の観点が抜け落ちており、撤退や売却の重要性が認識されていないこと、資本コストの意識が欠如していることも問題視された。
協働エンゲージメントと「共同保有」「重要提案行為」の線引きが、専ら討議のテーマとされた。これについては2014年に金融庁が「法的論点に係る考え方の整理」で該当する/しない行為を例示したが、なお範囲が不明確との声があることが報告された。委員からは協働エンゲージメントに対する期待が表されつつ、上記範囲については最終的には立法論になるとの認識も示された。なおパッシブ運用の投資家が全ての投資対象と質の高いエンゲージメントをすることは不可能、など投資家の能力に関わる課題なども指摘された。
来年は「おおむね3年毎を目途」というスチュワードシップ・コードの改訂時期に相当する。しかし一部のフォローアップ会議委員は「当面、あまり大きな論点は認識していない」ともコメントしており、本年度に改訂が議論されるかは不透明となっている。それでも同会議における議論の方向性は、今後も継続されるガバナンスそして資本市場の改革に対して、一定の影響力を及ぼすものと考えられよう。引き続き動向を注目していきたい。
以上