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速報:金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ報告書(案)

2022.06.07

日本シェアホルダーサービス株式会社

チーフコンサルタント 藤島 裕三

 

©Photo by Tats

 

金融審議会ディスクロージャーワーキング・グループ(以下、DWG)は5月23日、「中長期的な企業価値向上につながる資本市場の構築に向けて」と題する報告書(案)[1]を公表した。同日に行われた討議を踏まえて後日、確定版が取りまとめられる予定である。

DWGは2018年にも「資本市場における好循環の実現に向けて」として報告、これを受けて有価証券報告書(以下、有報)における記述情報の充実などを盛り込んだ内閣府令の改正をはじめ、企業情報の開示・提供に係る様々な取り組みが実行された。今回の報告書も確定後においては、各種の法改正やガイダンス策定などにつながることになろう。

本稿においては報告書(案)におけるDWGの提言から、上場企業の関心が特に高いと考えられるものをピックアップして概要を説明する。なお同報告書は未だ確定しておらず、最終的な内容は変更される可能性があることはお含み置きいただきたい。

 

1.四半期報告制度の見直し

DWGの関連で近時、最も頻繁にニュースとなったのが「四半期報告書の廃止」である。具体的な方向性として今回、金融商品取引法による四半期開示義務(第1・第3四半期)を廃止し、証券取引所規則に基づく四半期決算短信に「一本化」することが示された。企業にとっては開示書類が単純に減る訳で、負担軽減に直結する提言だと言えよう。

ただし「一本化」される四半期決算短信の在り方が現状のままでよいのかは、引き続きDWGで検討するものとされた。事業リスクや重要な契約などの記述情報を充実すべきか、監査人によるレビューを必要とすべきかなど、今後の議論に委ねられている。

 

2.サステナビリティ情報

有報に「サステナビリティに関する考え方、取組み」の記載欄を新たに設けることが提言された。書式はTCFDの「4つの柱」に沿ったもので、「ガバナンス」「リスク管理」については開示が必須、「戦略」「指標と目標」は重要性に基づき各企業で判断すべきとされた。「重要でない」説明は簡単ではないが、少なくとも段階的な対応は可能だろう。

特に人的資本については「人材育成方針」「社内環境整備方針」および、その「測定可能な指標」「目標と進捗状況」を記載すべきとされた。もっとも前者はコーポレートガバナンスコード補充原則2-4①の対応で、後者は女性活躍推進法の行動計画で、既に説明している内容をベースにでき、企業にとって過大な負担にはならないとも考えられる。

 

3.コーポレートガバナンス情報

有報に「取締役会、委員会等の活動状況」の記載欄を、新たに設けることが提言された。監査役会等について求められている「開催頻度」「主な検討事項」「個々の構成員の出席状況」の説明が、取締役会と指名・報酬委員会にも必要となる。既にコーポレートガバナンス報告書で記載が望まれている事項であり、容易に対応できる企業は少なくないだろう。

またデュアルレポーティングラインなど内部監査の実効性に関する説明、政策保有株式の発行会社と業務提携を行っている場合の説明が、有報の開示項目にすべきとされた。その他に挙げられた事項(監査役等の視点による監査状況、政策保有株式の議決権行使基準など)については、現状の枠組みで積極的に開示することが促されている。

 

4.有価証券報告書の開示

前回の報告書から引き続き、有報の総会前開示が期待されている。投資家のニーズに応えるためには本来、有報提出から株主総会までの間に十分な期間を置くことが望ましいとしつつ、まずは「必ずしも十分に早い時期でなくとも」提出することが望ましいとされた。

有報の英文開示についても、前回から引き続きのテーマとなっている。これも有報全体の英訳は負担が大きいことを鑑みて、まずは事業リスクやMD&A、サステナビリティ情報など「利用ニーズの高い項目」から英文開示を促すことが提言された。なお総会前開示・英文開示ともに今回報告書は、制度改正を伴った施策については言及していない。

 

以上、今回DWGの報告書案における主な提言を取り上げた。内容は多岐にわたっているものの、段階的・漸次的な対応が可能である、既存の開示情報を活用できるなど、過大な負担とならないよう配慮された印象がある[2]。企業においては現在の開示状況を再確認しつつ、自社なりにベストプラクティスを目指して取り組むことが期待されよう。

[1] https://www.fsa.go.jp/singi/singi_kinyu/disclose_wg/siryou/20220523/01.pdf

[2] ただし同日の会合においては、サステナビリティ情報につき「戦略」「指標と目標」も開示必須とすべき、など厳しい意見が相次いだ模様で、確定した報告書は企業に一層の負荷を求めるものとなる可能性も考えられる。

以上

 

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