世界最大の資産運用会社であるブラックロックのCEOラリー・フィンクは、世界金融危機をきっかけに、毎年、投資先企業の経営者に向けてメッセージを発信しています。メッセージの内容は、各種メディアが取り上げ、毎年話題となります。
2021年のメッセージでは、2020年1月から11月までに、世界の投資家が2,880億米ドルもの資金をサステナブル資産に投資(伸び率96%)したことに触れ、
私はこれが、長期にわたる、一方で足元において急加速しつつある資本の再配分の始まりであると考えています。この変化は長い年月をかけて実現し、あらゆる種類の資産価値の評価を一変させることになると予想しています。気候リスクが投資リスクであることは明らかです。しかし、気候変動への対応に伴う移行は歴史的な投資機会をもたらすものでもあります。
との考えを打ち出しています。
資本の再配分とは、気候変動による物理的な脅威と世界経済のネットゼロ(※)への移行に沿ったポートフォリオを構築することです。投資家は、企業がそうした移行にどのように備えているかを理解し、サステナビリティ・リスクを評価する必要があります。そうした投資家のニーズに応えるために、企業は、一貫性があり、質が高く、かつ重要性(マテリアリティ)の高い公開情報へ投資家がアクセスできる環境を整えることが求められます。
※2050年までに二酸化炭素排出量を大気中から除去できる量と同水準まで減らす。
ラリー・フィンクは、2020年、2021年のメッセージにおいて、
の提言に沿った情報開示を要請しています。
2021年のメッセージによると、2020年から2021年の1年間で、SASBのガイドラインに従った情報開示は363%増加し、1,700以上の組織がTCFDを支持する意向を明らかにしているとのことです。ESG投資の拡大に伴い、TCFDやSASBを採用する企業は、今後も増えることが予想されますので、それぞれについて概要を見てみましょう。
【TCFDとSASBの概要】
名称
(直近改定年・本拠地の所在国) |
主な経緯・特徴 |
SASBスタンダード
(2018年・米国)
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l 細則主義の考え方に基づいて、77の産業別に具体的な開示項目・指標を設定(ただし、どのトピックが自社とってマテリアルかを最終的に決めるのは企業とされている)
l 投資家のための情報開示 l 開発段階では米国企業のための開示基準を志向していたが、最終的には世界の企業のための開示基準に位置づけが変更されている l 開発にあたっては、実務家に対して業種・産業別に組織された意見募集プロセスへの参加が広く呼びかけられた。最終的には2,800人を超える実務家(企業関係者・アナリスト・コンサルタント等)などが開発に関与した l SASBのガバナンスは、独立したスタンダード設定機関であるSASBと運営全般に責任を持つSASB財団・理事会(SASB Foundation Board)により構成される
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TCFD最終提言書
(2017年・米国)
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l 気候変動関連の財務情報を主要な年次報告書等で開示するよう提言
l 投資家を含む金融セクターのための情報開示(ただし、金融セクターに対しても情報開示を求めている) l 基本的には原則主義の色彩が強いが、温室効果ガスの排出量については開示するよう明記されている l 気候変動との関連が特に強い一部の業種に対しては、業種別の補助手引きも策定されている l 金融安定理事会(FSB)によって設立されたタスクフォースにおいて検討・策定が行われた
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以下の局面、課題カテゴリーに基づき、77の産業別に具体的な開示項目・指標が設定されています。どの産業に分類さているのかは、SASBのウエブサイトで調べることができます。
https://www.sasb.org/standards/download/
SASBのガイドラインに従った情報は、例えば、「SASB対照表」といった名称で、ウエブサイトに掲載されています。
【SASB対照表の事例:トヨタ自動車】
https://global.toyota/jp/sustainability/gri/
金融機関をはじめとする1,785の企業・機関が賛同を示しています。うち、日本の企業・機関は、341の賛同が確認されています(2021年2月25日時点)。
【TCFDの報告内容】
項目 | 報告内容 |
ガバナンス | 気候関連リスク・機会についての組織のガバナンス |
戦略 | 気候関連リスク・機会がもたらす事業・戦略、財務計画への実際の/潜在的影響(2度シナリオ等に照らした分析を含む) |
リスク管理 | 気候関連リスクの識別・評価・管理方法 |
指標と目標 | 気候関連リスク・機会を評価・管理する際の指標とその目標 |
TCFDのガイドラインに従った情報は、例えば、「統合報告書」や「サステナビリティレポート」に掲載されていたり、ウエブサイトや「TCFDレポート」にまとめて報告されていたりします。また、「有価証券報告書」にTCFDに関する情報を掲載している例もあります(丸井グループ)。
SASBは、2021年の中ごろに、「国際統合報告フレームワーク」を公表している国際統合報告評議会と統合する予定です。ESG/サステナビリティ情報開示に関する国際的に統一化された基準が必要という意見もあるなど、ESG/サステナビリティを巡る動きから目を離せません。
執筆者:ESGコンチェルト
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