SR(Shareholder Relations)・IR総合支援、株主判明調査、議決権行使対応、コーポレート・ガバナンス

JSS 日本シェアホルダーサービス株式会社

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第4章 責任投資・ESG・SRI

1.責任投資・ESG・SRIの背景

ESGという言葉は、環境(Environmental)、社会(Social)、コーポレート・ガバナンス(Corporate Governance)の頭文字であるが、比較的歴史の浅い言葉であり、一般的に普及しているとは言い難い。実は、これは2006年4月に国際連合が国連責任投資原則(United Nations Principles for Responsible Investment、略称UNPRI)を立ち上げた際に、新しく作られた概念なのである。

2005年、当時のアナン国連事務総長のリーダーシップのもと、世界各国の大手機関投資家を招集し、投資の分析・評価にあたって「持続的発展」を組み込むための原則を策定したのがPRIであり、その中でESGという概念が初めて作り上げられた。それまでにも、社会的責任投資(Socially Responsible Investments、略称SRI)や責任投資(Responsible Investments)、あるいはトリプル・ボトムライン(環境、社会に加えて経済つまり企業業績を企業評価の三本柱とするという考え方)という言葉はあったし、英国ではSEE(社会、環境、倫理)や倫理投資(Ethical Investments)という言葉も使われていたが、概念や定義は様々であり、明確な定義があるとは言い難い状況であった。PRIとESGの概念は機関投資家を巻き込むことによって、金融市場にかかる投融資のための原則・概念であるということを明快に示したといえるだろう。

国連責任投資原則に署名している機関は、発足当初62だったが、年を追うごとに増え、2012年9月27日現在で、1,123機関が署名している。内訳はアセット・オーナー(年金、政府、財団等資金拠出者)262機関、運用会社677機関、サービス・パートナー182機関である。日本の署名機関は24機関である。責任投資原則は資金の出し手であるアセット・オーナーを主要な署名対象として獲得に力を入れている。

図表 日本の責任投資原則署名機関

分類 署名者 署名時期
アセットオーナー キッコーマン年金基金
損害保険ジャパン
太陽生命保険 2007
フジ厚生年金基金 2008
セコム企業年金基金 2011
東京海上日動火災 2012
インベストメントマネジャー 三井住友信託銀行2
三菱UFJ信託銀行
大和証券投資信託委託
ニッセイアセットマネジメント 2006
みずほ信託銀行 2006
日興アセットマネジメント 2007
りそな銀行3 2008
三井住友アセットマネジメント 2010
野村アセットマネジメント 2011
東京海上アセットマネジメント 2011
損保ジャパンアセットマネジメント 2012
T&Dアセットマネジメント 2012
大和住銀投信投資顧問 2012
サービスプロバイダー グッドバンカー 2007
インテグレックス 2010
アークオルタナティブアドバイザーズ 2011
CSRデザイン環境投資顧問 2012
一般社団法人フロンティアジャパン 2012

(出所)UNPRIおよび各社ウェブサイト等から筆者作成
注1:署名時期の☆印は原初署名者
注2:旧住友信託銀行が原初署名者。旧三井アセット信託銀行(その後の中央三井アセット信託銀行)は2006年に署名
注3:署名当時はりそな信託銀行

言葉の一般的な認知度は、企業の社会的責任(CSR) > 社会的責任投資(SRI) > ESGの順であろう。年金シニアプラン総合研究所が一般国民に対して2012年3月に実施したアンケート調査でも、「よく知っている」「知っている」「聞いたことがある」合計で、CSRは39.8%、SRIは29.0%、ESG投資は23.9%にとどまっている。

本章ではこれらをまとめてSRI/ESG運用と呼ぶこととし、以下、さらに考察をすすめていきたい。

2.SRI/ESG運用とは

では、これらSRI/ESG投資とは具体的にどのようなものなのであろうか。欧州のSRI団体であるEUROSIF(以下ユーロシフ)のによる分類を見てみよう。

図 SRI/ESG運用の分類

狭義のSRI 倫理ネガティブスクリーン 多種の条件やフィルターを適用
ポジティブスクリーン 責任ある企業経営にコミットしている企業、また評価で きる製品・サービスを提供する企業を選び、投資する
ベスト・イン・クラス方式 業種やセクター毎に社会・環境・倫理の面で優れてい る企業を選別する
パイオニアスクリーン/テーマ型 持続可能な開発や低炭素経済への移行など、社会・ 環境・コーポレートガバナンス問題に関連するテーマ 型投資。水資源やエネルギーなど特定のセクターへの 投資も含む
広義のSRI 規範によるネガティブスクリーン OECD,ILO,UN,UNICEFなどによる国際的基準や規範に もとづいたスクリーニングにより投資対象から除外する
単純な除外またはスクリーン 特定の業種(武器製造、ポルノ、煙草、動物実験など) や問題国(ミャンマー、スーダンなど)との取引企業等 を投資対象からはずす
エンゲージメント 企業に対して、より責任のあるビジネス慣行を促す、あ るいは投資リターンを上げる手段として一部のファンド マネージャーが活用している。株主権に依拠する部分 が大きい。主に経営者との対話が使われる。議決権行 使が使われることもある。
統合(Integration) 運用者等が、伝統的財務分析に加えてコーポレート・ ガバナンスや社会・環境・倫理(SEE)リスクを含めて評 価する

表の中に出てくるスクリーンとは、ある基準をあてはめて銘柄(投資先企業)を選別することを指す。ポジティブスクリーンは良い企業を選んで投資するのに使われる。ネガティブスクリーンは悪い企業を選び出し、①選定された企業を売却する、あるいは投資対象からはずす場合と②あえてその企業に投資する場合がある。後者は株主として意見を言うことで、問題のある企業の経営を改善し、株主価値を向上させることを目標とするものである。

エンゲージメントも耳慣れない言葉であろう。対話、ダイアログという言い方をされる場合もあるが、エンゲージメントには単に対話するだけでなく、対話することで株主価値の向上を目指すというニュアンスが含まれる。投資家が株主総会の議決権を行使することや、その行使内容について企業と面談したりレターを出したりすることもエンゲージメントの一環である。

これらの様々な手法を単独で行う場合もあるが、いくつかを組み合わせて「統合」するという形が増えている。

さて、こういった活動を機関投資家がどのように行うべきか、という点で参考となるのが英スチュワードシップ・コードである。スチュワードシップ・コードは2010年7月に英国財務報告評議会(Financial Reporting Council 略称FRC)より公表された規範で運用機関が遵守すべき事項をまとめたものである。企業側にのみコーポレート・ガバナンスに関する開示や対応を要請するのではなく、投資家側が責任ある投資家・株主として、コーポレート・ガバナンスに関してどのような対応をすべきか、という観点から制定されたもので、法律ではないが、企業側と同じく「遵守せよ、あるいは説明せよ(Comply or explain)」原則の下で運用されている。スチュワードシップ・コードの内容は次の通りである。

機関投資家は

  • スチュワードシップ責任をどのように遂行してゆくかに関する方針を公表する
  • スチュワードシップにかかる利益相反を管理するための健全な方針を持ち、それを公表する
  • 投資先企業をモニターする
  • 株主価値の保全と向上の方法として、いつ、どのように活動を段階的に発展させていくのかという点に関し、明確なガイドラインを設定する
  • 適切と考えられる場合には、進んで他の投資家と協働する意思を持つ
  • 議決権行使に関する明確なガイドラインを持ち、行使状況について開示する
  • 定期的にスチュワードシップと議決権行使状況を報告する

(出所)FRC資料より筆者仮訳

スチュワードとは極めて英国的な概念であり、あまり日本ではなじみのない言葉であろう。「執事」として貴族等の身の回りの世話から家の運営・財産管理まで行うイメージである。機関投資家が資金委託者および上場企業の執事=スチュワードとしてとる行動のあるべき姿(ベスト・プラクティス)を現したものがスチュワードシップ・コードなのである。これに基づいて面談や書状の送付を個別または共同で行ったり、議決権行使結果を開示したりしている。アメリカにはこのような投資家規範はないが、公募投資信託の議決権行使結果は英国に先駆けて2004年からSECに提出され、インターネット経由で閲覧可能となっている。

以下本書に続く

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山崎 明美

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